100年ライフ、「長すぎる老後」が生み出す市場


 65歳以上の高齢者人口は、’16年で3461万人(人口の27.3%)、そして’40年には3,868万人(人口の33.2%)となり、なんと3人に1人が高齢者になる(総務省統計局)。高齢者は、その特性から従属人口とみなされ一定の社会的な保護を受けることができる。しかし現実には、高齢者の健康寿命は確実に延びている。その様な実情を踏まえて日本老年学会は、「老人の定義を75歳以上」とし、65~74歳は、社会の支え手と捉え直すよう政府に提言している程である。この再定義が実現すると、老齢人口は、13%と半減し、労働人口は1760万人増える(‘16年基準)。凄いマジックだ!
 これからの日本には、これまで人類が経験したことがない「元気で金持ち時持ち」の80代、90代、100代のアクティブなシニアエイジャーが数多く登場する。そしてその人々の生活を豊にする新たな市場が生まれる。しかも100年ライフは、次の世代にも連鎖する市場であり、生活サービス産業の地殻変動が目の前に迫っているのだ。

単品ではなく融合した市場が生まれる


 高齢層は、年齢とともに健康やライフスタイル、資産状況、就労状況、趣味や価値観などの面で個人差が大きくなる。そのため市場創造に当たっては、1人ひとりに心地よいトータルな価値を提供することが基本だ。そして不安などのネガティブ要因を払拭し、生活が快適になるポジティブ要因を徹底的に深掘りすることが重要になる。また新たに「単品ではなく統合的な商品サービス」「所有や使用に伴う煩雑さからの解放」「『死ぬリスク』から『生きるリスク』への担保」などの視点も有効だ。
 食と健康の融合を考えて見よう。既に、「個客」の健康状態や生活習慣、そして遺伝子情報などに基づいて、単に健康食品の提供だけではなく、健康に貢献するサービスを付加した複合的な商品が提供されている。例えば、ネスレ日本は、不足栄養素を補うためウエルネス抹茶カプセルを宅配すると同時に、脳トレで脳を鍛える付加サービスを提供する。老化防止という付加価値を一体化させた複合商品だ。
 家電や住設機器などは、IoTでつながり利便性を高めている。シャープの冷蔵庫は、行動パターンや嗜好を学習しながら、生活者に適切なタイミングで最適な食材管理やメニュー提案などをアドバイスしてくれる。今後は、電子レンジとつながり、個々人に合わせたメニュー提案を行い食生活の簡便化や料理の時短に貢献する。その先には、個客DB対応のコンビニ宅配や食品メーカーECとのアライアンスも待ち受けている。
 またトイレや風呂や冷暖房機器などの住設機器に埋め込まれた各種センサーを接続させることで、健康管理や光熱費運用の最適化が実現できるのも嬉しい。例えば、便器やベットに実装したセンサーとウエアラブルのバイオセンサーを連携させれば、24時間の健康管理が可能になる。そして地域の病院や薬局と提携することで、異常値が出たときは検査を受け、未病の内に治療することもできる。単機能ではなく、関連する商品やサービスを新結合させることで新たな健康サポート価値が生まれるのだ。
 高齢化社会では、所有より利用価値を重視したサービス経済化が加速する。100歳まで物を買い続けたら場所や廃棄の問題は大変だ。自動車などの耐久消費財は、使用便益と維持の手間とコストを比較すれば、むしろシェアリングなどの非所有の方が合理的な点が多い。家もライフステージに合わせて広さや立地を選択し、賃貸で住み替える人が多くなる。特に高齢になると、不便な郊外ではなく都心居住の方が生活利便性は高いし移動も楽だ。所有でなく賃貸の方が、煩わしさもなくなる。
 使用価値に軸足を移すと懸念されるのは、賃料や使用料を生きている間、払い続けることだ。これまでは、家族のために死ぬリスクを考えてきたが、これからは長生きによる生活費や病気などのリスクをどう担保するかが課題になる。となると金融資産運用と仕事で収入を得ることが必須だ。

生涯現役でプラスαの収入を確保する


 これからの高齢者は、年金だけで豊かな生活を送ることは難しい。健康であれば働いて収入を得ることで、生活に多少なりともゆとりを持たせることができる。しかも仕事をすることは、健康にも良い影響を及ぼす。
 高齢者は、長年の経験で培ってきた今でも通用する専門スキルやコミュニケーション能力を持っている。高齢のお客に対しては、経験値の少ない若者より、顧客視点で物事が考えられ、顧客対応力も高い。例えば、資産運用や住宅などの商品販売は、裏も表も知り尽くした高齢者営業マンの方が適している。現役時代は、高いノルマ達成のため無理を承知でお客に商品を押しつけてきたが、収入も1/4程度で良ければ、顧客本位の支援が可能になる。
 そしてなによりも高齢者が経済活動に参加することは、社会全体で考えてもプラスの効果が大きい。高齢者が、積極的に社会を支える時代の到来だ。

個客対応型のプラットフォームを創造する


 100年ライフの新市場創造は、個客本位で考えることが基本だ。まず徹底した個客インサイトを行い、個客の表層的なニーズではなく潜在意識や価値観を把握する。そして従来の生活満足度などに加え、幸福感や健康や生き甲斐などの新たな発想の重要指標を開発することが求められる。それらが新たな市場創造の視点になる。
 次に、購買スタイルの開発だが、個客にとって嬉しいのは、利便性の高いワンストップ型サービスだ。必要なときに買物相談ができて、多様な商品の提供が可能で、また自分好みにカスタマイズ化されたネット&リアルの共通プラットフォームが効果的だ。
 そして販売される商品は、単機能でなく複合型で個客ベネフィットを最大化するサービス型商品が望ましい。またビジネスモデルは、継続して購入や利用してもらうリカーリング(継続的収益)や利用により支払うサブスクリプション(従量制と定額制)などが合理的であり、高い顧客満足度が得られる。そのための個客対応、配送、決済などのフルフィルメント機能や個客データの蓄積・解析などのパーソナル化の要素技術は既にある。
 100年ライフ市場では、顧客ロイヤルティの高い共通プラットフォームを先んじて導入した企業が勝ち組となる。


縄文コミュニケーション(株) 福田博
「企業と広告」((株)チャネル)のコラムより  2018/1/22

2018年05月01日