「日の丸家電」復活の勝ち筋

 「日の丸」家電が復活するためには、過去の成功モデルを捨てて顧客本位で構想し直すことだ。現在、日本家電事業の多くは、売却されたり撤退したりと惨憺たる状況だ。一方、中韓企業は日本企業から技術を学び、顧客に寄り添ってインサイトを行い独自の商品を開発し、また生産効率を上げ価格を下げて世界市場を席巻している。
 日本家電敗退の理由はいろいろある。過剰品質高価格、高コスト体質、遅い開発スピード、短期志向、そして大企業病などだ。しかしこれらを改善しても後追いになるだけで、中韓勢を超えることはできない。
 重要なのは、顧客ニーズや市場は常に変化し、今までにない新しい問題や悩みを生み出しているので、それらを市場機会として的確に掴むこと。そして新たな発想で商品価値を開発し、それに対応する新次元のビジネスモデルやサプライチェーンを構築することだ。

海外勢は先駆け、日本勢は後追い  
 海外勢にシェアを奪われている掃除機市場を見てみよう。日本勢が圧勝していた80年代は、殆どが紙パック式だった。そこへ英ダイソンが、コンセプト「吸引力の変わらない、紙パックのいらないサイクロン式掃除機」を日本市場に投入(‘93年)。これは紙パックにゴミがいっぱいになると吸引力が落ちるという問題を解決した商品だ。当初、日本勢は冷ややかに見ていたが売れ始めると一斉に追随した。今後は、米アイロボットがコンセプト「掃除を楽しくする」ロボット掃除機「ルンバ」を投入すると(’04年)、日本勢は無視していたが高齢層や共働き層に人気となると後追いをする。この商品は世界でロボット掃除機市場を創造しトップブランドになった。しかしその後の技術開発を怠った結果、性能を進化させ低価格化を実現した中国勢に敗れ、現在では中国杉川集団に買収されている(’25年12月)。革新を怠ると敗退するという競争の激しい市場だ。
 米国市場でダイソンキラーと言われている米シャーク(’95年~)が、吸塵力のより高いサイクロン式「SharkNinja」(’18年)を日本市場に投入。しかし狭い日本の部屋には適さず苦戦する。そこで同社は、日本ニーズにきめ細かく応えるため訪問観察調査を徹底的に行う。同時に「日本の狭い部屋」をボストンの研究所に再現し、日本市場に合わせた強力な吸塵力と小型軽量化を実現した商品を開発。さらにヘッドに複数のセンサーで360°全方位から吸塵できる独自機能を実装。そしてコンセプト「最高の掃除力を求める」のコードレススティッククリーナー「Shark Power Clean 360」を発売(’25年6月)。この商品は短期間でスティック型カテゴリーのトップシェアグループ入りを実現する。同社は、現状に甘んじることなく発売後も口コミやレビューをチェックし猛烈なスピードで改善を繰り返し完成度を高めている。
 次にTV市場を見てみよう。一時は世界をリードしていた日本のTV事業は、中韓勢との価格競争に敗れて多くの企業が中韓勢やファンドに買収される。買収された後は親会社の指示に従いマネジメント体制を転換し、顧客ニーズを深掘りして商品開発を行い、またサプライチェーンの合理化で価格を下げ、さらに独自のビジネスモデルを構築し売上を拡大している。例えば、ハイセンスグループに買収された東芝「REGZA」は、ゲーム需要の増大に対応して動画をスムーズに見せる技術を開発。またグローバルサプライチェーンの中で徹底したコスト削減を図り、今や日本市場で4割を占めるトップブランドになっている。技術で勝って、ビジネスで負けている典型的な事例だ。

市場の変化を市場機会に変える
 生活者の変化を見てみよう。世帯は少子高齢化が進み1~2人世帯が約6割、65歳以上人口は約4000万人になる。これらの変化は巨大な新需要を生み出す。ライフスタイルの変化では、コスパ、タイパ、簡便化、省エネなどのニーズが増える。またインフレで実質所得減は続くので節約志向は変わらず値ごろ感は重要だ。そして生活の合理化へのニーズも非常に高い。例えば、日々の家事が0.2%改善できると複利で1年間に2倍も合理化できる。これを趣味などの自分時間に充てることができれば新たな嬉しさが生まれる。
 技術を見ると、デジタル・モジュールやAIの進化が著しい。すでに従来の家電にスマホやクラウドを連携させ、またAIを実装して省エネや家電間の統合管理なども実現している。そしてビジネスモデルは、所有価値より体験価値を最大化するサブスクなども一般的になり、ここから得られる顧客データで新たな商品開発が可能になる。例えば、料理家電は、データ解析により美味しい料理が自動で作れるので単身や高齢世帯には嬉しい。すでに顧客データは、商品開発の重要なシーズになっている。
 現在は、GAFAMなどの集中型クラウドプラットフォームが主流だが、今後は、自律分散型のブロックチェーン技術を利用した医療・健康や決済などの機能と連動した家電が一般的になる。またフィジカルAI(ヒト型ロボット他)は、今まで難しかった「家事のお手伝い」が可能になるので、家電の個別最適化が視野に入るなど新たな市場が期待できる。

勝ち筋は「新顧客ニーズ」を創る 
 未来の本質的な顧客ニーズを炙り出すには、これまでの顧客の悩みや問題の傾聴、観察調査、購買行動データ分析だけでは不充分だ。混沌として市場では、人間の美的感性や本能的な心地良さなどの視点を加え統合的に解析することが必須だ。
 そして本質的ニーズが掴めたら、コンセプトは限界を超えたところに設定し、それを牽引力に新しい商品を開発する。それを体験価値として伝えて顧客のウオンツを喚起し、新しい需要を創り出す。即ち、今までにない「新しい顧客ニーズ」を創造して顧客の共感を獲得することで新たな市場を創り出すという考え方だ。そして競合と同質化するMBA的発想ではなく、人間中心のデザイン思考で新たな仕組みのビジネスモデルやサプライチェーンを構築することだ。
 当たり前だが、5年前と同じ事業をしていたら変化の激しい時代では生き残れない。日本には禅などの精神性の高い文化があり、また優れた人材もおり、モノづくりのポテンシャルは高い。市場変化をチャンスとして新次元の家電を開発することを期待したい。

2026/01/25

縄文コミュニケーション株式会社

モモズプラネット顧問 福田博


2026年07月09日