顧客ロイヤルティにつながる「延長保証」

 

 家電量販店でパソコンなどを買うと「メーカー保証期間は1年ですが、延長保証をつけますか」と当然のように聞かれるようになった。通常、商品を購入すると、家電製品は約1年程度、自動車は3年のメーカー保証が付いている。この保証期間内であれば、故障が起きても無償で修理を行う。しかし保証期間を過ぎると修理費用は自己負担で、しかも不具合状況の連絡から始まり、見積もりチェック、修理依頼の判断など慣れない作業に煩わされる。
 その様な煩雑さの解消や突発的な修理費用を回避するため、メーカー保証期間に加えて、3~5年程度の延長保証サービスが様々な商品に導入されている。延長保証の認知は、生活家電やAV家電では約7割、また利用経験者も約3割を超えているほどだ(テックマークジャパン調べ、‘17年)。

延長保証をマーケティングに活用


 メーカーや販売店などでは、購入客の安心を担保すると同時に、顧客の固定化を図るマーケティング施策として延長保証の加入を促進している。以前は、「日本製品は壊れにくい」との認識があり、有料で延長保証に加入することに違和感があった。しかし最近の商品は高機能化、多機能化、デジタル化して故障発生はメーカー保証を過ぎた3~5年後に故障率が上昇する傾向があり、顧客も不安に感じているところがある。
 そこで家電量販店などでは、購入時に付与されるポイントを活用して延長保証費用に充てるように誘導。また大手家電量販店の中には、クレジットカード機能を持つ会員カード利用者に対して、自動的に延長保証を付帯させ加入者を増やしている。この取り組みは、非会員に比べて、来店頻度や購入金額も高くなるという効果があるからだ。
 パソコンやスマホなどのデジタル機器の場合は、仕事や生活の必需品であり故障した場合の影響が大きく迅速なサポート体制が必須だ。ビジネス利用の多いパナソニック「レッツノート」は、通常1年のメーカー保証だが、購入後1か月以内にユーザー登録をすると合計で4年間の無償延長保証が得られる。また不具合時には最短3日で出張対応も行うので機会損失を最小限に抑えることができる。同社にとってもユーザー登録によりプロフィールが把握できるので、購入後の顧客とのコミュニケーションを強化できるメリットがある。
 住宅メーカーの延長保証も充実している。新築の場合、住宅の基本構造部分の瑕疵に関しては引き渡しから10年は、住宅品質確保促進法で保証されている。問題はそれ以降だ。住宅の場合は、雨漏りなどの不具合が見つかると数十万から数百万と高額な修繕費になる場合がある。その様な顧客の不安を解消するために、無償で保証期間を30年に延長する企業が増えている。さらにトヨタホームなどは、建物のタイプによって定期的な無料点検を行うことを条件に有償で延長保証を60年にしている。建物の無料定期点検を行う中で良好な関係を作り、建物の状態によっては外壁や内装などのリフォーム受託につなげるなど固定客化を促すことができる。
 自動車メーカーの一般保証は、各社一律で新車登録から初回車検を迎える3年目以内(もしくは6万kmまで)が基本だ。延長保証は、有償で保証期間を5年(ただし10万kmまで)に延長できる。ハイテク化した自動車の故障は、数万円から数十万円かかるので所有者にとっては安心感のあるサービスといえる。但し、この特典は初代オーナーだけの特典で、車両名義が変わると延長保証は消滅する。継続希望の場合は、正規ディーラーで有料の保証継承点検と2年延長保証加入料が新たに必要になる。これは顧客中心が常識になっている現在では、一昔前の企業都合の仕組みであり今後の改善が望まれる。

最適な延長保証制度を創る


 延長保証制度の目的は、故障時の不安を取り除き、顧客満足度を向上させて継続顧客になってもらうこと。そしてメーカーや販売店の企業力や商品特性、そして修理の経験値に応じてそのスキームは異なるが、重要なのは、修理業務運営と想定修理費用リスクの最適化を実現することだ。
 延長保証業務を自社で行う場合は、修理に係る人件費や見積もり精査などの専門性や事務コスト、そして採算性の検証や修繕引当金等の計上など煩雑な作業が必要となる。あるいは修理に係る受付対応や修理手配などの運営業務一切を専門の延長保証会社に委託し、修理費用リスクは延長保証会社が保険会社に請求するというスキームもある。この場合は、運営や修理費用リスクはアウトソースできるが、修理業務のコントロール、顧客の使用状況や修理データ等の把握は難しい。
 導入目的から見れば、メーカーや販売店が、顧客対応の主体となって制度設計を行い、経験豊富な延長保証会社に業務委託し、適切な役割分担を行い共同で対応することが望ましい。メーカーや販売店にとっては、関連経費を軽減できるし、また延長保証会社は、多くの故障事例を基に修理を行うので過剰な部品交換なども防げて修理の最適化と費用の効率化が可能になる。また故障状況や修理履歴などの分析データは、メーカーの商品改善に反映できる利点もある。

顧客とつながり続ける「延長保証」


 一般的に、メーカー保証期間が終わると顧客との関係性は切れてしまう。しかし延長保証に加入していると、顧客側も「何かあったら相談しよう」との思いがあり関係性は継続している。顧客とのリテンションが大きな課題となる中で、これは有効な手法といえる。
 また最近では、顧客は「所有」ではなく「利用価値」に対価を払うという意識が拡大しており、利用価値を継続して担保することは顧客の安心感につながる。そして不具合が発生した場合でも、無償で迅速に修理してくれるのは嬉しい顧客体験となり信頼感が生まれる。この様な体験はロイヤル化にもつながる。その結果、買い替え時には、最初にブランド想起され、継続化の可能性も高くなる。最近では、「良いものを大事に長く使用する」という意識が拡大しており、これは環境面でも合理的な取り組みといえる。
 延長保証は、単なるアフターサービスの延長ではなく、顧客とのエンゲージメントを強化して顧客生涯価値を最大化する効果的な有償サービスといえる。

                             縄文コミュニケーション株式会社 福田 博

2020年01月10日

2020年01月10日