生成AIで「個客」体験の向上と効率化を図る

 対話型のChatGPT(OpenAI、MS系)やBard(Google) 、画像のMidjourneyなどの生成AIの活用が世界中に広がっている。生成AIは、ネット上にある膨大なテキストや画像などのデータを収集して学習・解析し、要求に合わせて独自のアルゴリズムで文章や画像などのクリエイティブを自動的に作成する技術だ。すでにデジタル広告やプロモーションの世界ではAIが活用されているが、既存のAIと比べ生成AIは精度や速度が格段に向上し、「個客」体験を飛躍的に強化している。 
 現在、著作権侵害、誤・偽情報、個人情報流出などの問題が懸念されているが、リスクを恐れて様子見をしているとチャンスを捨てることになる。むしろ様々なトライ&エラーを繰り返し行い、生成AIの活用ノウハウを取得することで、個客とのより自然な形でのコミュニケーションを創り出すことが可能になる。

活用領域が拡大する生成AI
 生成AIの活用分野は、デジタル広告、SNSコンテンツ、メール内容、販促メッセージ、Webサイト、ランディングページなどのコピーや画像の制作、そしてSEO対応、カスタマーセンターの応答など多岐に渡る。
 バナー広告などのデジタル広告は効果が減少傾向にあり、改善のためにはターゲティング精度の向上、パーソナライズ化、そしてクリエイティブ制作のスピード化が必要だ。生成AIは、ユーザーの興味関心やアクセス状況に合わせてこれらの作業を迅速に行える。またクリエイティブ効果が良くなければ、AIに指示を与え新たなクリエイティブを生成することもできる。これまではコピーライターやデザイナーの能力や経験でクリエイティブが生み出されてきたが、これからは生成AIで最適化されたクリエイティブのスピード制作が可能になる。
 現在は、WebサイトやSNSなどオウンドメディアの重要性が高まっているが、これに生成AIを実装すると、膨大な個客データを迅速に解析して個客とのより快適なコミュニケーションや様々なサービスの提供が実現できる。事例として生成AIを導入している米国P&Gを見てみよう。紙おむつ「パンパース」は対象層が限られているため、マスではなくオウンドチャネルに力を入れている。自社サイトに「名前のアドバイス」「出産予定日計算」「出産時の対応」などのコンテンツを配置。そこから得られる「出産前」「新生児」「小児」までの発達段階に応じた個客データや意見を解析してターゲティングやデジタル広告の制作に活用している。そしてABテストなどを行い、コピー、画像、音楽などの広告表現の改善を迅速に行うことでパフォーマンスを向上させている。さらに独自のアルゴリズムを開発し、TikTokやYouTubeなどのチャネルで表現や配信などの最適化を行い広告費の効率化を実現している。
 Eコマースの場合、旧来型のChatBotでは不充分な点もあるが、生成AIを導入すると個客の相談や疑問に、より自然な流れで応えることができる。また蓄積された購買や心理的データに基づき対話行うことで購入の選択相談などのショッピングサポート、その結果としてのCVR向上、そして購入後のフォローアップやファン化の促進も狙えるなど一気通貫での個客対応が可能になる。
 検索への生成AI導入は、精度を格段に向上させる。現在は、キーワードを入力すると多くの候補が表示されるが、生成AIになると自然な形でチャットを行うだけで最適なサイトが表示される。ユーザーにとっては多くのサイトを調べることなく無駄な作業が省ける。現在、ChatGPTとBardの熾烈な技術開発競争が繰り広げられており、ユーザーの利便性はさらに向上する。また企業にとっては、ユーザーへのリーチ精度が向上し、またSEO対応の低コスト化も期待できる。

個客体験の向上と効率化を図る  
 生成AIは、まだβ版状態であり、精度をより向上させるために膨大なデータの深層学習&解析技術とアルゴリズムの開発競争が世界中で行われている。この状況の中で企業がその技術を利用して最適なクリエイティブを生み出すためには、担当者の「プロンプト」の習熟が必須になる。これは求めるクリエイティブを生成するためにAIに入力するコンセプト、ターゲット、狙いなどの条件指示のことだ。指示や対話や質問などの形でプロンプトを繰り返し入力して、また生成されたクリエイティブの効果検証を行いながら最適化に至るテクニックやノウハウを蓄積していくのだ。
 多くの広告や販促のクリエイティブ作業は、ルーチンワーク的反復作業が多く、人件費節約のために殆どの作業を外注していた。しかし生成AIが実用化されると、クリエイティブやコミュニケーション作業の大幅な効率化や迅速な自動化などが可能になる。するとこれらの作業は、内製化して自社商品に精通している担当者が行った方が個客との距離は短くなり、個客対応力は向上するので良質な個客体験を提供できる。
 多くの企業は、自社メディアで個客とダイレクトにつながり、日々一次データを取得している。これらのアクセス行動や興味関心などのデータは個客理解の宝であり、これらの活用で実効性のあるパーソナライズ化も可能になる。

生成AIに企業人格を反映させる 
 生成AIはネット上のデータから統計的な処理で候補案を出すことは得意だが、初期設定のままではブランド・パーパスに沿った最適解、即ち、“企業らしさ”を出せない。そのためには自社用にカスタマイズする必要がある。創業の理念や価値観から始まり、経営層や社員の個客に対する想い、社会常識、普遍的な価値観、そしてNGワードなどを入力して学習させる。要は、生成AIに個客対応の基準となるブランド・パーソナリティ(人格)を持たせるのだ。もちろん市場の状況や企業の方針に合わせて適宜チューニングを行い質の高い個客対応力を維持する。そして個客に寄り添い、課題や疑問に丁寧に応えることで信頼と共感を獲得しエンゲージメントを高めていくのだ
 生成AIは、すでに世界中の多くの人々や企業が利用しているので、独自性がなければ競合と同質化して優位性を創り出せず、将来の重要な個客チャネルを創ることもできない。企業は、生成AIの可能性や拡張性を把握して、自社独自の個客ベネフィットが提供できるパーソナル・コミュニケーション・メディアとして構想することが求められる。

2023/7/25

縄文コミュニケーション株式会社
モモズプラネット顧問 福田博 

2024年04月05日